浸透圧

好きなものを好きと大いに言い、自分内の流行り廃りや自分自身を整理整頓したりもする、日々の徒然。

映画に愛を、邦題にもっと愛を!

スクリームごっこをしましょう

 皆さんはドリュー・バリモアになって電話を取って下さい。私が変質者になって「お嬢さん、ホラークイズをしよう」って言うので、そしたら皆さんは電話を肩に挟みながら、これから見ようと思っていたホラーDVDのお供にする為に、ガサガサ振ってガスレンジで作るポップコーンを作りつつ、クイズに答えて下さいね。ではスタート。
「この中で一つだけ間違いがあるけど、どーれだ?」

 悪魔のいけにえ
 死霊のいけにえ
 悪霊のいけにえ
 悪魔のえじき
 死霊のえじき
 悪霊のえじき
 悪魔のはらわた
 死霊のはらわた
 悪霊のはらわた
 悪魔のしたたり
 死霊のしたたり
 悪霊のしたたり

 聡明な皆様扮するドリュー・バリモアは「何よ、全部正解じゃないの」と答えます。そうしたら私は「ぶっぶー、残念でした。悪霊のえじきだけが、本当は"悪霊の餌食"表記が正解」と申しあげます。「そんなの電話じゃ判らないわよ!」…はい、お後が宜しいようで。

 ちなみにこの笑点擬きの茶番は、スラッシャー映画「スクリーム1」のオープニングシーンのパロディです。

 

如何にも志が低いじゃないですか

 出題がフェアじゃないスクリームごっこは兎も角、上記のクイズは別にネタでも何でもなく事実です。しかしこの中で見る価値があるのは精々「悪魔のいけにえ」と「死霊のはらわた」と「死霊のえじき」と「死霊のしたたり」位ですので、好奇心に駆られてレンタルすると酷い目に遭いますからご注意下さいね。特に「悪魔のはらわた」は弟子への名義貸しで何一つ関わっていないアンディ・ウォーホールの名前がクレジットされているので、うっかりそれに釣られたら本当に酷い目に遭います。呉々もご注意下さい。

 これらは全て洋画を日本で公開(もしくはレンタル・ビデオスルー販売)する時に付けられた邦題です。どう考えても、ヒット作がでたからそれにあやかって、上手くしたらそっちと間違えたお客様が手に取るかも知れないという、二匹目の鰌狙い以下の、しょうもない邦題ばかりです。下手をしたらパッケージまで似せてくることもありますよね。何かヒットやブームがあると即あやかり命名が大量発生するのは映画に限ったことではありませんが、内容に全く何の関係もない無理矢理な事例も多くてほとほとうんざりします。

 まあ中身が本当にB級C級以下のどうしようもない映画群ですので、まともに取り合うのも面倒くさくて適当に付けておけば上手くすれば誰か釣れるんじゃない?という配給会社のスタッフのやる気のない声が聞こえてくるようですが、例えばどんなに寝るしかない程つまらない、箸にも棒にも引っかからないどうしようもない映画ですら、「死霊の盆踊り」というある意味キャッチーな名前のお陰でそこそこの知名度と動員があったのですから、一周回ってしょうももない方にでも頑張れば、ひょっとしたらなんとかなったものもあったかも知れません。

 万が一にも誰かしら引っかかってしまったら、こんな映画の配給を買ってしまった自分の会社以外の被害者が出る、それはなんとしても阻止しなければならない、みんな、こんな映画は観ちゃ駄目だ!という、配給会社のなけなしの良心でしたらそれはそれで涙なしには語れない美談ですが、これらにはそうした麗しいエピソードすらありません。なんとも志の低い話です。

 

昔の邦題は麗しかった

 「ある愛の詩」という邦題は「愛」ではなく「ある愛」とし、「詩」を「うた」と読ませている時点でかなり詩情溢れる物ですが、原題は「Love Story」です。割と味も素っ気もないですね。原題の意味そのままを移し替えている訳ではありませんが、「Love Is a Many-Splendored Thing」を「慕情」と訳した訳者には如何にも詩心がありますよね。勿論昔の物がただただ礼賛されるべき素晴らしいものばかりではありません。そこは英語をカタカナ表記にしておくので良かったんじゃないの?というような余分な邦訳もあるにはあります。でも圧倒的に言葉のセンスが良い邦題は昔の方が多かったように思います。

 勿論、配給数が桁違いになってしまって一つ一つにそう時間も人件費も掛けていられない配給会社の事情もわかるのですが、それにしたって映画に愛がある人達であれば、もう少しだけでも頭を捻ってくれればいいのにと思うことは少なくありません。

 「My Best Enemy」が何をしたら「ミケランジェロの暗号」になってしまうんでしょうか。作中にミケランジェロなんて欠片も出てこないのに。「Clear and Present Danger」は「今そこにある危機」と題され確かに意味は正しいのですが、言葉として冗長な気が私にはします。「眼前の危機」などでも充分良かったと思います。

 ちなみに比較的最近まで日本市場に於ける最悪の邦題と言われていたのは「バス男」でした。これは完全な「電車男」への便乗であり、内容とも「Napoleon Dynamite」という原題とも一向に関係がない為、大変に評判の悪いものだったのですが、余りの悪評に耐えかねたのか誰か良心的なスタッフが加入したのか、去年の10月に「電車男に便乗して最悪な邦題で売ってしまってすみませんでした」という謝罪を表明すると共に、改めて「ナポレオンダイナマイト」という原題のカタカナ表記そのままでリリースされ直しました。

 畢竟、必要なのはお客様、この場合映画が好きで映画を観る人への誠意と、映画そのものへの愛ですよね。私は映画が大好きなので、やっぱり愛ある扱いをして欲しいなとどうしても思ってしまいます。

 

 そもそも、最初の話に戻りますけど、悪魔と死霊と悪霊とに溢れすぎていて、どれを借りたんだか借りてないんだか、レンタル屋さんに行ってホラーのコーナーの前で毎回とっても困るんです。何でサスペリアの前に撮影されてるプロフォンドロッソがサスペリア2なんですか。2って言われたら1を見てないと見ちゃ行けないような気になるから人に勧めにくいじゃないですか。幾らホラーファンだってそこまでお馬鹿さんじゃないので、ちゃんとその辺は考慮して邦題付けて下さい、お願いします配給会社さん。大変自分本位なオチで、またしてもお後が宜しいようです。