浸透圧

好きなものを好きと大いに言い、自分内の流行り廃りや自分自身を整理整頓したりもする、日々の徒然。

ピーター・ジャクソンが大好き

ラブリーボーンの感想を尋かれまして

 この間親友からピーター・ジャクソン監督作品の「ラブリーボーンってどんな映画?」と尋ねられて、相当困ってから「ザ・Pジャク(私は彼を略してこう呼ぶことが多いです)って感じ」と答えました。どんな種類の映画かと尋ねられるとファンタジーはファンタジーなのですが、さりとて美しいだけでもなく、ラストに大きな救いがある訳でもなく、ちょっと気分の悪いシーンも多少は含まれています。宣伝のされ方はハートウォーミングな方向性でしたが、そんなことはちっともありません。だからどういう映画と説明しづらいですし、どういう層に勧めれば良いのかも正直わかりません。

 でもPジャクを愛している人間にとっては、あれは本当に見所、語り所の多い作品で、Pジャクの今までの撮影歴の集大成とも言える彼らしい演出法の総決算でした。まず圧倒的に映像が美しく、私がPジャクフィルターと呼ぶ、普通にしていたら普通の役者さんを極上の美しさに撮ってくる彼の豪腕も健在で、けれど、伊達にかつて世界一「バッドテイスト(悪趣味)」な監督と言われた彼でもなく、「乙女の祈り」の版権を態々買って態々映画化するような人ですから、ちょっとぞっとしたりぎょっとしたり胸が悪くなるようなシーンがない訳ではありません。けれど彼はこの映画でそういうことを描きたかったのではないので、それらはほんの一瞬のことです。

 彼を好きで、彼に対して好意的な見方をしている私などが見ると、見終わった後に「しまった、あそこ伏線だった、もっと画面チェックしておくんだった!」という羽目に陥り、必ずやもう一度見直すことになります。DVDを見る時には、映画館で購入したパンフレットを片手、もう片方にはいつでもスローや一時停止ができるようリモコン完備で臨まねばなりません。

 伊達にロードオブザリングの世界を映像にした監督ではないので、映像の美しさについては何度でも言いますが本当にただただ圧巻です。

 

彼の代表作は指輪シリーズなのでしょうが

 私にとっての「これがピーター・ジャクソンだ!!!」という一本は間違いなく「ブレインデッド」です。こんなに面白い、見終わった後に爽快感で満面の笑みになれるゾンビ映画に出会ったのは後にも先にもあれだけです。私が同じ映画の為に5回も劇場に通ったのもあの作品だけです。世の中にこんな映画を撮る人がいるんだと本当に胸が弾みました。あれ以来私のオールタイムベストの映画はずっと「ブレインデッド」ですし(近年そこにジェイソンXが次点で入りましたが)、ピーター・ジャクソンは私の大好きな大好きな映画監督になりました。

 彼は小学生男子がそのまま大人になったような感性を持ち合わせていて、好きなものは全部ぶち込んでくるサービス精神も持ち合わせていて、共同脚本家はずっと組んできて気心の知れいている、そして今では奥様となった方ですし、緩急のツボを心得た演出と、全ての編集には目を通す(だから出来上がりに時間がかかるのですが)徹底ぶり、そしてなにより、キャストやスタッフを見る目が確実です。

 ハワード・ショアというある筋では有名な作曲家がいて、指輪シリーズは彼が音楽をやっています。その次の作品であった「キングコング」にも本当は起用される予定でしたが、出来上がってきた曲をPジャクが気に入らなくてそこでおじゃんになった組み合わせでした。ハワード・ショアと長く組んでいるのがデヴィッド・クローネンバーグで、あの人とハワード・ショアの組み合わせは鉄板中の鉄板です。何故あんなに相性がよいのか考えた時に、音が醸し出す温度と、クローネンバーグの映画の温度がかなり近いのだということに気づいたことがあります。そしてそれらはどちらもかなり低温です。寒いんですよね、クローネンバーグの映画って。そしてその寒い画面にずっと音を付け続けてくれているハワード・ショアは、多分ショア自身がその寒さと割と相性が良いんだと思います。ですから南国系のお話であるキングコングにはあわなかったんじゃないのかな、その点でPジャクは正しい、とこれはまぁファンの勝手な邪推ですけど、そのようにも思っています。

 

映画馬鹿で映画好きが全力で映画を撮る

 私は愛情を裏返してだすような、斜に構えたシニシズムやサブカル精神を持ち合わせていないので、馬鹿は全力でやってこと愛おしいと思いますし、そういう馬鹿が全力でやっている馬鹿が愛しくて大好きで仕方ありません。人生映画につぎ込んで悔いなし!という究極の馬鹿が、全力で馬鹿をやっているのですから、これはもう無条件に抱きしめたい程愛しいですし、大好きです。映画って言うのは映画に人生賭けて悔いなしの映画馬鹿が撮るものでしょう?と、現役の映画監督に申しあげたら「現場でだって近頃そういうこという子は減ってるよ」って言われてしまって、逆に吃驚したことがあるのですが、私はそういう熱い映画魂、映画馬鹿魂、そしてお馬鹿ソウル溢れる物がとっても好きです。スカしたアカデミズムなんか知ったことか、というタイプの映画好きなので、そうですね、キネマ旬報よりは映画秘宝寄りの人間、と言えばいいでしょうか。1800円なりを払って2時間を費やすのであれば、心地よくなりたい訳で、難しい顔をして映画館から出て来たい訳ではありません。

 だから私はピーター・ジャクソンが大好きです。クエンティン・タランティーノのとかロバート・ロドリゲスとか三池崇史も大好きです。アルジェントやクローネンバーグや北野武にはまた違った理由があるのでそれはまた別の機会に。

 ちなみに、ピーター・ジャクソンでお勧めを尋かれたら、スラッシュ描写は結構てんこ盛りですけれどやっぱち「ブレインデッド」を推しますね。スラッシュ描写が大層苦手な私の親友ですら大喜びで笑ってみてた位ですから、多分大丈夫じゃないかと思います。他には?と尋かれればまあ無難なんですけどやっぱり指輪三部作、但しこれ緒はエクステンディットエディションを絶対に勧めます。何故なら劇場版などには三作目にストーリーの根幹となる部分での大幅なカット(というか編集が間に合わなかった為に泣く泣くそれで放映した)がありますので、絶対にエクステンディットエディションで観て下さい。