浸透圧

好きなものを好きと大いに言い、自分内の流行り廃りや自分自身を整理整頓したりもする、日々の徒然。

ダリオ・アルジェントが好き

殺人電波ゆんゆん監督

 今日親友と電話で話していて話題に出たので今日はこの人の話を。ホラー界隈では知らぬ人はまずいないであろう有名映画監督です。一般層にも有名な所だと、「決して一人では観ないで下さい」というコピーでお茶の間を凍り付かせた「サスペリア」でしょうか。

 彼の映画の特徴を端的に表すと「殺人描写が割と鋭利に痛い」「色が綺麗」「ヒロインが断然美少女」と言う所に尽きると思います。鋭利に痛い例としては、窓に叩きつけられてガラスが割れて上から落ちてきたガラスで首を切り落とされるとか、瞼に針を均等に貼り付けたテープを貼られて絶対に目が閉じられないようにされるとか、有刺鉄線のような物が敷き詰められた出口のない部屋に突き落とされて体中チクチクさされて血塗れになったりとか。色が綺麗というのは文字通りで、そんな残虐描写をしながらも、モチーフに併せた原色のライトが画面をライトアップして、殺人現場といえど実に美しく絵画的に描写されるのです。そして酷い目に遭わされ悲鳴を上げて逃げまどうヒロインは、デビュー直後のピークで可愛らしかったジェニファー・コネリーだったりする訳です。

 これは他のホラー映画にはありそうで案外ないテイストだったりします。「残虐描写が痛い」ものは沢山あるかも知れませんが、「鋭利に痛い」と限定するとぐっと少なくなりますし、更にそれが「ビジュアル的に美しい」となるとますます少なくなります。痛い系筆頭は今だとSAWシリーズとかホステルとかになるのかなと思うのですが、あれは相当痛いですけど全然綺麗じゃないですしねぇ。

 ヒロインが可愛い子、というのは他にもあるでしょうけれど、最近はどちらかというと戦うヒロインの方が多くなってきているので(エイリアンのリプリーとかバイオハザードのアリスとかスクリームのシドニーとか)、ただただ顔を歪めてきゃーきゃー言いながら酷い目にあうステレオタイプの古典的ヒロインは案外減ってきているのです。

 そして色彩のセンスは、これははっきり他の人にはないこの人の特徴だと思います。例えば死を連想させるシーンでは赤、謎に近しいシーンでは青、というように、テーマと色が密接に関わって常に画面を彩っています。ちなみに今のは私なりのたとえで、アルジェント自身のモチーフと色の関連は多分彼なりにきっちりある筈です。

 但し、話が面白いかと言われるとちょっとハテナですね。「サスペリア2」という邦題で日本公開された「ディープレッド(プロフォンドロッソ)」には「これは凄い」と舌を巻くようなトリックの面白さがありましたが、アルジェントの撮る作品は大抵、ストーリーとしては破綻している物が多いです。意味のない残虐描写の繋げ方をいきなりしたりする所からして、多分彼の頭の中には何かそうした残虐描写の電波がゆんゆんしていて、それをアウトプットしたいが為にストーリーの方を無理矢理くっつけているように感じる事さえあります。そんなものばっかり撮っているんですが、でも彼はホラー界では歴とした巨匠なんですよね。私自身も大好きな監督です。

 

色彩と音楽の美しきハッタリ

 ダリオ・アルジェントを語るには避けて通れないキーワードが二つあります。一つが「ジャーロ」というジャンル、もう一つがそのジャーロの先駆者である「マリオ・バーヴァ」という映画監督。ジャーロとはなんぞやというと、イタリア製サスペンスホラー、但しストーリーを犠牲にしても殺人描写をドラマティックにする事の方を優先する、というようなジャンルです。大抵犯人は黒いコートに黒の革手袋だったりというお約束じみた特徴もありますが、そういう「ジャーロ」という雛形を作ったのが「マリオ・バーヴァ」という偉大なマエストロです。この人の「モデル連続殺人」という映画作品なしには、ダリオ・アルジェントの完成は有り得なかったと思います。

 「モデル連続殺人」はお話自体は大したことのない話ですが、一つ一つの殺人描写が美しい色彩や印象的な構図、フレーミングに彩られ、画家志望だったというマリオ・バーヴァのカメラは、長回しの場面ですら一瞬たりとコマで切り取って美しいと言えないようなカットが一切ありません。どの瞬間に一時停止を押しても美しい映画を上げて下さいと言われたら、私は間違いなく「モデル連続殺人」を上げます。(余談ながら他に上げるとしたら北野武の「Doll」ですね。)

 アルジェントは明らかにマリオ・バーヴァに大変に感銘と影響を受けており、彼自身がそれをきちんと表明してマエストロに敬意を表しています。マエストロの息子さん(映画監督)をよくプロデュースしているのも、先達への敬意からかと思います。残念ながら息子さんはお父さん程才能に恵まれていませんが、それでもアルジェントは邪険にしない辺り、バーヴァに恩義を感じているんだなぁと感じさせるエピソードです。

 マリオ・バーヴァの映像の美しさは、「一コマ切り取っても静止画としても美しい」というような、謂わば一枚絵の連続的な側面もありますが、それを更にぐっと映画的に推し進めたのがアルジェントだと思います。先述のライトの使い方、場面場面の尺の取り方、カメラアングル、そして何より彼の映画に欠かせない音楽。アルジェントの殆どの作品の音楽を手がけているのはクラウディオ・シモネッティという人で、この人はイタリアのプログレバンドの人です。アルジェントに見出されたことによって名前を売り、プログレバンドとしては今一つ大成はしませんでしたが、アルジェント映画をきっかけに映画仕事をよく引き受けるようになり、そちらではサントラのヒットを何枚か出しています。アルジェントとシモネッティの関係を丁度良く説明しているコラムブログを見つけたのでご紹介しておきますね。
  【コラム】映画と音楽 第11回「ダリオ・アルジェントとゴブリン」 (NOAH BOOK@WEB)
  http://book.studionoah.jp/2011/05/_11_1.shtml

 色彩の美しさと大音響で鳴り響くアルペジオが特徴的なちょっと金属的な音楽、これらがあってアルジェントのゆんゆん電波炸裂の猟奇的シーンが美しく彩られ、ストーリーなんかは破綻していても、見ている方は何かとても凄い、大した物を見たような気分になって満足するのです。彼が巨匠と言われている所以は恐らくその辺りと思います。猟奇的描写に興味のない人に「それでも面白いから観て!」と自信を持って私が勧められるのは実はプロフォンドロッソ(サスペリア2という邦題はサスペリアがヒットしたが故の便乗で、本来こちらの方が先に撮影されている作品です)位なんですけど、それでも好きか嫌いかでいうと私は相当この監督が好きですね。

 他にお勧めを考えるとしたら、痛いのが大丈夫な人には「サスペリア」は必見と申しあげておくとして、後は往年のダリオ・アルジェント節とは相当かけ離れてはいますが、短い時間でキレイにまとめたなという所で、「愛しのジェニファー」を上げておきます。ちょっと坂口安吾の「白痴」を思い出すような作品でした。あれよりもっと男の人が即物的にお馬鹿さんですけど。

 

蛆虫プールありがとう

 私とアルジェントの本当の出会いは恐らく幼少時のTVの洋画劇場における「サスペリア」だったと思うのですが、真の意味で私が「これこそ私とアルジェントの出会いだ」と思うのは、中学生の時に公開された、ジェニファー・コネリー主演の「フェノミナ」だと思います。公開前に当時通学で使っていた駅にどーん!とポスターが張られていて、当時14歳位だったそのジェニファー・コネリーがまぁ美しかった事と言ったらなくて、見かけた瞬間どんな映画かもわからないまま「私これ絶対観に行く!」と決めていました。

 中学生時点でもう私は相当映画が好きでホラー映画も好物でした。ですが、母親の言いつけで一人で映画館に行く事は許されていませんでした。友達と一緒に行くのは辛うじて許可されていましたが、それ以外で観たい映画があれば母と一緒に行くように、という言いつけに従って、私はフェノミナを観たい旨を母に告げて一緒に行って貰いました。

 気の毒な事に、母はさほどホラー映画が好きではありません。そしてアルジェントの残虐描写は、好きでない人にとっては大分ショッキングではあるようです。極めつけに、フェノミナにはじゃんじゃん屍体が沢山放り込まれて蛆やらなにやら湧きまくった汚水槽に、可憐なジェニファー・コネリーが突き落とされるなどという破廉恥極まりないシーンがありまして、母にはそれが大変堪えたようでした。観た後暫くは思い出すからといってオイキムチが食べられなくなってましたから。

 その後暫くしてまた私が別のホラー映画が観たいから付き合ってと母に申告した所、諦めたように彼女は「もう一人で映画館に行っていい」という許可をくれました。いやあ、蛆虫プールとアルジェント様々ですね。

 

 こんな風にして私はアルジェント映画と大変に親密になっていく訳ですが、その中でアルジェントの娘さん、アーシア・アルジェントとも出会う事になります。お父さんには似ていない大変な美人です。最近はよくお父さんの映画にもヒロイン枠で出演しています。ただアーシャはどう観てもきゃーきゃー泣き喚く能なしヒロイン的な風貌ではありませんし、アルジェントもその辺りを考慮してか、そういう役回りを彼女にさせていません。ただ実の娘ですらやっぱり映画の中では酷い目に散々に遭わせているので、「美少女(美女)が酷い目に遭う」という線は外れてはいないです。アーシャが大好き、という熱弁を振るうとまたどんどん話が取り散らかってしまうのでその辺は追々として、今日はお父さんの方のお話でした。

 「ホラー映画」と「美しい」って案外矛盾してなかったりするんですよ。